2023年5月26日「岸辺露伴ルーヴルへ行く」が映画公開されましたね。
「岸辺露伴ルーヴルへ行く」は荒木飛呂彦先生の大人気コミック「ジョジョの奇妙な冒険」で4部から登場する漫画家、岸辺露伴を中心に展開していくスピンオフ作品です。
ここでは「岸辺露伴ルーヴルへ行く」の原作漫画のあらすじ(ネタバレ注意)から隠されたテーマを考察していきたいと思います。
映画は2020年に高橋一生さんの主演でテレビドラマ化された「岸辺露伴は動かない」の劇場版。
このシリーズは岸辺露伴の奇妙で怖い体験をつづる1話完結の短編シリーズで現在までに3期(1~8話)がNHKドラマで公開され話題となりました。
どのストーリーも不思議な世界観に引き込まれる作品で劇場版も楽しみですね。
原作漫画(愛蔵版)はフランス・パリのルーヴル美術館共同企画作品でルーヴルを題材とした荒木先生書き下ろし作品、フルカラーでジョジョの代名詞の一つ「ジョジョ立ち」も芸術的に描かれています。
ネタバレになってしまうかもですが、原作漫画の本編では最初に岸辺露伴の名前の意味が紹介されます。
「ん……少し違和感」
そして奈々瀬が露伴の前に現れ奇怪な行動をとった訳や奈々瀬はなぜ解放されたのかも気になります。
そこで気になった違和感を原作漫画のあらすじから考察していきたいと思います。
さらに「岸辺露伴ルーヴルへ行く」のネタバレの他に、黒い絵の正体や幽霊の正体また奈々瀬の正体も紹介。
そして原作漫画のあらすじから隠されたテーマを考察紹介していきたいと思います。
岸辺露伴ルーヴルへ行く原作のあらすじ紹介(ネタバレ注意)
「ヘブンズ・ドア」相手を本にして、その人物の人生の記録や想いを文字で読むことができ、また書き込んで支配することのできる特殊な力。
その能力をもつ岸辺露伴は何よりも「リアリティー」を重んじる風変わりな漫画家です。
好奇心をくすぐられる奇妙な出来事に釣られ、抑えきれない興味に突き動かされていく露伴、編集者の泉京香と共に取材先で遭遇する奇怪で不可思議な現象、その出来事に立ち向かっていくサスペンスホラーです。
「岸辺露伴ルーヴルへ行く」では露伴の青年時代、淡い想いを抱いた初恋の女性から語られた「この世で最も黒い絵」をきっかけに日本からルーヴルへと物語が展開されていきます。
「岸辺露伴ルーヴルへ行く」の主な登場人物紹介
岸部露伴
杜王町に住む27歳の人気漫画家。
スタンド(ヘブンズ・ドア)という能力を持ち相手を本にして記憶や体験を読むことが出来ますが、ただ亡くなった人幽霊は「死」の文字で埋め尽くされ基本読むことが出来ません。
デビュー前の学生時代、祖母の経営するアパートに入居した女性からこの世に「最も黒く邪悪な絵」が存在し、それは昔日本で描かれ現在ルーヴル美術館に所蔵されていると聞かされます。
時は流れ露伴はルーヴル美術館を訪れることに、そこで絵が引き起こす恐ろしい現象に直面し、黒い絵に隠された怨念と奈々瀬の秘密をしることになります。
藤倉奈々瀬
17歳露伴の初恋の女性、21歳人妻。
露伴の祖母が経営するアパートに入居、祖母の定めた入居条件は既婚者NGでしたが離婚して一人で住む予定とのことで特別に許され、そこで露伴と出会い「この世で最も黒い絵」の話を伝えています。
やや情緒不安定な一面が見られ泣きながらアパートを飛び出したり、突然涙を流しながら露伴に抱きついたり、奈々瀬をモデルに書いた漫画を見た際は激昂して原稿をズタズタに切り裂くなど露伴を翻弄し失踪してしまいます。
実は「黒い絵」と深い関係が、奈々瀬の正体とは……。
露伴の祖母
露伴の母方の祖母。
かつて杜王町で旅館を経営していたが夫が亡くなったのをきっかけに廃業。
アパートとして部屋を貸し出していましたが「喫煙不可、夫婦不可、子連れ不可、ペット不可、料理不可、家具持ち込み不可、バイク不可、楽器、麻雀不可、ドライヤー不可、門限は夜10時まで」と厳しい条件を告げていたので空き部屋が多かったようです。
露伴がルーヴルへ行く前年に亡くなったはずがZー13倉庫にその姿が……
山村仁左右衛門(やまむらにざえもん)
この世で最も黒い絵「月下」を描いた絵描き。
300年ほど前樹齢千年以上の大木の中からこの世で最も黒い「漆黒の黒」を発見しそれを顔料に絵を描いていましたがその木を切り倒したことで罪に問われ処刑されてしまいます。
彼の絵は呪いが噂されすべて焼き捨てられましたが生前彼が隠した事により一枚だけ残り、その「呪いを持った邪悪な絵」はルーヴル美術館に買い取られ保管されることに。
「岸辺露伴ルーヴルへ行く」原作漫画あらすじ日本編(ネタバレなし)
当時17歳の学生だった露伴は漫画家デビューを目指し、新人コンテストの原稿を執筆するため祖母の経営する元旅館アパートに夏休みの2ヶ月ほど泊まることに。
そこで同時期に入居した21歳の既婚女性、藤倉奈々瀬と出会います。
初めの出会いは男湯の脱衣所、着替え中の奈々瀬と鉢合わせてしまい慌てる露伴。
また魅力的な奈々瀬の姿を許可無くスケッチしてしまい、のぞきを疑われたりもしますが奈々瀬が露伴の描く漫画に興味をもったことをきっかけに親しくなっていきます。
そんな中、奈々瀬から一度だけ見たことがあるという「この世で最も黒い絵」の存在を聞かされます。
ねえ……この世で「最も黒い絵」って知ってる?
言い換えるなら「邪悪な絵」……
最も美しい絵はおそらくダ・ヴィンチの「モナ・リザ」……その逆の絵よ『最も邪悪な絵』
ルーヴル美術館にあるのよ、パリの……
言い伝えによると300年ほど前の絵で、絵描きの名前は山村仁左右衛門。
彼は樹齢一千年の大木の幹の中から「漆黒の色」を発見し、それを顔料に絵を書いていましたが、切り倒してしまったことにより法令に触れ処刑されてしまったとのこと。
絵には「呪い」が噂され全て焼き捨てられましたが、仁左右衛門が生前隠されたと思われる1枚が蔵の奥から発見され現在はルーヴル美術館にあるという。
露伴がもっと詳しく聞こうとしますが突然電話が、それは離婚に関係しているものなのか、奈々瀬は泣きながら出て行ってしまいます。
一週間後戻ってきた奈々瀬は露伴に抱きつき泣き出します。
彼女はまた泣いていた……
何故泣くのか?
その無防備な涙が今まで見たどんなものよりも美しかった。
深く青い海よりも月夜にキラめく清流の湧き水よりも。
奈々瀬に心を奪われた露伴は
あなたの力になりたい
全ての恐れから、それがなんであろうとあなたを守ってあげたい
と、ヘブンズ・ドアで心を読もうとしますがやめておきます。
その時奈々瀬は完成された原稿に気がつき、
これあたし?
この女性の人物……あたしなの?
露伴は奈々瀬が姿を消した一週間彼女のことが頭から離れず奈々瀬をモデルに原稿を完成させていたのです。
あなたあたしの事ストーリーに描いたの?
重くてくだらなすぎるわッ!!
すごくくだらなすぎて安っぽい行為ッ!!
どうしてこんなものをッ!!こんなものッ!
奈々瀬はなぜか激昂し泣きながら原稿をズタズタに切り裂きます。
露伴くん……あたし
ごめんなさい……本当に……
あたしを許して何もかも……
と言い残しその後失踪してしまいます。
10年後、世間話をきっかけに奈々瀬や絵のことを思いだした露伴は好奇心のためか、かつての慕情のためか「最も黒い絵」を見るためルーヴル美術館を訪れることに。
「岸辺露伴ルーヴルへ行く」原作漫画あらすじパリ編(ネタバレあり)
時が経ち人気漫画家となった露伴は新作執筆の取材をかねルーヴル美術館を訪れることに。
しかし山村仁左衛門の絵は美術館職員でさえ知る者はなく、データベースでヒットした保管場所は地下にあるという「Z-13倉庫」。
そこは30年近く使われていない見捨てられた倉庫で、露伴に見学の許可が出るとともに絵を調べるため4人の職員が同行することになります。
- 東洋美術学芸部門の責任者のゴーシェ
- 警備管轄の消防士2名
- 通訳の野口
Z-13倉庫に着くとそこには錆び付いた鍵がかっており開かない状態、中を覗くと確かに1枚の絵が確認できます。
無理矢理こじ開け中に入ると突然消防士の1人が撃たれ亡くなります。
さらに次々に襲われる職員たち、そして突然現れる異様な人々。
うそだ……そんな……
あなたは……
あれは自動車の事故
そう叫び一瞬でゴーシェが自動車にひかれたような状態で亡くなります。
さらにもう1人の消防士は射殺された状態。
あんたなのか……あんたは確か戦場で……
戦争だった
なぜ、あんたがルーヴルに……うそだ
ピエール そんな……
ママを許して……
あたしが目を離さなければ
あなたは公園の池で溺れたりしなかった
通訳の女性、野口は突然現れた異様な人々の中にピエール坊やを見つけその子に触れた瞬間溺死状態に。
この現象は『血縁』が過去に犯した罪と同じ死、黒い絵は先祖や肉親の罪を利用し心に記憶や後悔を見せて攻撃するというものでした。
血の繋がりから逃れられる者はこの世にいない……
そして露伴の前に現れたのは去年死んだはずの「おばあちゃん」更に黒い絵の中からは「奈々瀬」が現れ悲しそうに見つめ語ります。
ごめんなさい露伴さん
あたしを許して何もかも……
これは「あの人」の「怨念」……絵の中に閉じ込められている「恨み」
追い詰められた露伴でしたが奈々瀬の放った言葉により17歳当時の記憶がフラッシュバックします。
切り裂く、切る……
露伴は自分に「記憶を全て消す」と書き込み、記憶から先祖を断ち切ることで危機をのがれる事が出来たのです。
そして露伴はつぶやきます。
仁左右衛門と彼女は今解放されたのだ……
黒い絵に導くために計算された奈々瀬の行動!露伴の前に現れた理由を考察
黒い絵の正体
「黒い絵」は何百年、何千年も木の暗闇の中で眠り続ける蜘蛛のようなどす黒い生物で、それを顔料に絵を描き処刑された仁左右衛門の怨念が生物と一体化し、人の体に刻まれている祖先(血縁)の記憶を見せて攻撃していたのです。
藤倉奈々瀬が現れた理由を考察
後の調査から絵のモデルは処刑された仁左右衛門の妻山村奈々瀬と判明、旧姓は『岸辺』
奈々瀬は「黒い絵」に宿った夫の怨念を止めようと「血の繋がり」を断ち切り封じてくれる者を望み、自ら何百年も呪いとなって絵にとどまっていたのでしょう。
そして露伴の前に現れた、これは「岸辺家の血」が関係しているのではないでしょうか?
奈々瀬が現れた元旅館アパート、原作には古い建物となっていますが奈々瀬の生前から続く岸辺家に関係の旅館だったのではと考えます。
そのため想いの残る旅館に現れる事ができ、血縁であり「ヘブンズ・ドア」の能力を持つ露伴なら……と思い姿を現したのではないでしょうか?
また、奈々瀬の一連の行動は「黒い絵と奈々瀬」を露伴に印象づけるためだったのでは……
計算された奈々瀬の行動
出会いは着替え中の奈々瀬との鉢合わせ、17歳の露伴にとて衝撃的な出来事だったでしょう、ただ気になるのは男湯の脱衣所だったこと。
後に無断でスケッチしてしまうなど、この一件で奈々瀬の魅力が印象づけられたことが伺えます。
さらに露伴との距離、近づいたと思えば突き放すこの謎めいた言動も露伴を翻弄し深く印象づけることで思い出してほしかったのではないでしょうか。
奈々瀬を思い出すことで黒い絵にたどり着いてほしかったのでは。
また露伴の漫画を激昂し激しく切り刻んだ行動は露伴の奈々瀬に対する慕情、そして黒い絵の怨念を断ち切ってほしいとの想いからだったのではと考察します。
そのため失踪前、露伴に謝り泣いていたのは純情な青年を利用し危険な世界に故意に巻き込もうとしている罪悪感また、命を奪ってしまうかもという悲しみからだったのではないでしょうか。
岸辺露伴ルーヴルへ行く原作漫画から考察するテーマとは?(ネタバレ注意)
「儚さ」(はかなさ)とは確かなところがなくて淡く消えやすい様子。
原作漫画の「岸辺露伴ルーヴルへ行く」では物語の初めに岸辺露伴の名前と意味が明かされます。
なぜ今さら名前の説明をするのだろう?
そう思いながらも読み進めると、どうやら作品の大筋に繋がっているようです。
私が考察するにその大筋、テーマは「は・か・な・さ」
作品のテーマは「はかなさ」
僕の名前は岸部露伴(27)両親が付けてくれた名で――
「露」は、はかなきもの――そして
「伴」は、ともにすごす――という意味
岸辺露伴ルーヴルへ行くの原作漫画では初めに岸辺露伴の名前と意味が紹介されます。
それは後に続く「はかなさ」への伏線だったのではないかと考察します。
「儚い想い」……露伴の初恋
儚い想いとは想いが淡く消えやすい、また自分の気持ちが分らず曖昧で不確かな想いであり17歳の露伴が抱く奈々瀬への淡い想いだったのではないでしょうか。
「儚い人」……奈々瀬
儚い人とは頼りなく繊細なひと、消えてしまいそうな淡い印象を受けるひとであり奈々瀬の不安定でふっと消えてしまう印象と重なります。
「儚い命」……ルーヴル美術館の職員たちの死
儚い命とは生命がふっと静かに終わってしまったようす、元気だったひとが突然亡くなってしまうさま、まさにルーヴル美術館の職員たちの一瞬にして命の火が消えてしまったことのように思います。
「儚い愛」……奈々瀬と仁左右衛門の別れ
儚い愛とは恋人との別れ、束の間であっけなく空しく消えていくこと、夫婦になったばかりで幸せだったはずの2人は処刑により束の間の幸せで終わりを迎えてしまいました。
「儚い人生」……すべての人生
儚い人生とは生きている間の不確かさや淡さ、人生が思いがけず短く終わってしまったように感じたり、確かなものを築いてきたと思ったのに、振り返ると淡い記憶しかないような思い。
ルーヴル美術館の出来事も露伴の中で淡い記憶に変わっているのではと推測します。
このように「岸辺露伴ルーヴルへ行く」の原作にはそれぞれの人生の儚さ、世の儚さが描かれているのではないでしょうか。
「儚さに寄り添うもの」として与えられた露伴の役割とは
露伴の名前の意味は「儚き者と共にすごす」。
確かなところがなく淡く消えてしまうまた、別れの意味をもつ儚さ。
この物語において儚い存在である奈々瀬を救うというもの。
怨念や呪いから奈々瀬を解き放つことで300年もの怨念もふっと消え振り返ると淡い記憶に、また初恋を儚いものとするならば露伴の初恋との決別など儚さを思わせるストーリーがちりばめられています。
「岸辺露伴ルーヴルへ行く」の大きなテーマは「儚いものは永遠に続かない」という事ではないでしょうか。
そして儚い者に寄り添って決着をつける、儚い者に終わりを告げる、完結させる。
これが岸辺露伴に与えられた役割ではないかと考察します。
まとめ
「岸辺露伴ルーヴルへ行く」が2023年5月映画公開されました。
ここでは「岸辺露伴ルーヴルへ行く」のネタバレ、原作漫画のあらすじから隠されたテーマを考察、黒い絵の正体や幽霊の正体、奈々瀬の正体も紹介しています。
「岸辺露伴ルーヴルへ行く」の原作漫画のあらすじは17歳の露伴が淡い想いを抱いた初恋の女性から語られた「この世で最も黒い絵」をきっかけに日本からルーヴル美術館へと物語が発展。
ルーヴル編からはネタバレになってしまいますが黒い絵の正体は蜘蛛のような生物と仁左右衛門の怨念が一体化し先祖の記憶や後悔を見せ攻撃してくるものでした。
そして奈々瀬の正体は仁左右衛門の妻であり岸辺露伴の先祖。
奈々瀬はなぜ露伴の前に現れたか、奈々瀬の露伴に対する行動は黒い絵に向かわせるため周到に用意されたものと考察します。
そのため血の繋がりのある露伴が先祖の記憶を断ち切ったことで仁左右衛門の怨念、奈々瀬の呪いが解き放たれることとなります。
「岸辺露伴ルーヴルへ行く」のテーマは「はかなさ」。
儚いものは永遠に続かないというのが大きなテーマではないでしょうか。
そして儚い者に寄り添って決着をつける、儚い者に終わりを告げる、完結させる、これが岸辺露伴に与えられた役割ではないかと考察します。